むかしむかし。
唐の都長安から天竺(今のインド)へ、ありがたいお経を取りに向かう偉いお坊様がいた。

天竺までの道のりは長く、険しく、妖怪変化の跋扈する大変危険なものだったので、護衛を兼ねたお供を連れての旅であった。
お供となったのは、猿、豚、
そして、鼠の夫婦であった。

皆、姿は獣であったが、おのおの特殊な能力を持ち、旅の助けとなるはずの者たちであった。

長安を出て10日目。

激しい砂嵐に遭うも、一行はこれによく耐え、旅を続けた。

14日目。

山中で妖怪に襲われるも、猿と豚の活躍によりこれを撃退、旅を続けた。



「お師匠様…」

「どうした猿よ」

「あの鼠の夫婦のことでございますが、足が遅く、旅の予定を遅らせているばかりか、妖怪が現われれば真っ先に逃げ出し、隠れて震えているばかり。あんな役立たずどもには、次の村で暇を出して先を急ぎましょう」

「猿の兄貴の言うとおりでございますよ。
 あいつらあの砂嵐の時も俺の後ろにしがみついて、もう邪魔で邪魔で…」

「これ、猿に豚。苦楽を共にすべき旅の仲間に対してそのようなことを申すものではないぞ。お前たちにはこの世の真理というものは見えぬであろうから叱りはせぬが、すべては御仏の御心である。あの者たちもその御心によって我らの供に加わったのだ。
見よ、あの月を。
満ちた月は欠け、欠けた月はやがてまた満ちるであろう。
すべては時と共にその姿、ありようを変えてゆくのだ。
お前たちがただの猿と豚ではないように、あの者たちも普通の鼠とは違う素晴らしい能力を持っておるはず。
今はまだ時が来ぬゆえ、足手まといのように感じられるやもしれぬが、やがては旅の役に立つ日もやって来ようぞ。
その時を待つのじゃ。それが御仏の御心であるぞ。よいな」

「はい。お師匠様」

長安を出て23日目。

鼠の夫婦に子が産まれた。

「あ、御仏の御心が私の肩に」

「愚かな猿めには理解できませぬが、これがお師匠様がおっしゃっていた、鼠の素晴らしい能力でございますね!この世の真理でございますね!
あ、また御仏の御心が、アギャッ!!」


金輪際夫婦ものを供にはするまいぞ。
お坊様は固く固く心に誓うのであった。

天竺への道は遠く険しい。


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