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名残りを惜しむ鼠夫婦の姿に、後ろ髪を引かれる思いで出立するお坊様であった。 |
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ともに旅の苦楽を乗り越えてきた猿と豚も、それぞれ鼠たちに別れを告げ、天竺へと急ぐのであった。 |
別れの辛さを乗り越えた一行が、村はずれにある池の淵を通りかかると、一匹の大きな鯉が話しかけてきた。 |
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「はい。私はこの池に300年棲んでおります鯉でございます」 |
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「この池の主などと呼ばれ、わがもの顔で生きてまいりました。若い頃にはずいぶんあこぎなこともいたしましたが、この歳になってふと振り返ると、私はこの池から一度も出たことが無く、外の世界というものをまったく知りません。 |
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ビッタンビッタンビッタンビッタン |
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ビッタンビッタンビッタンビッタン |
「…俺さぁ…」 |
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ビッタンビッタンビッタン |
「石から生まれたんだぜ」 |
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「…不思議だね…」 |
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ビビッビビッビビィッ |
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ポックポックポック |
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「ぜぇはぁぜぇはぁぜぇはぁ、わ、わ、わたしを、を、を、て、て、ぜぇはぁぜぇ、て、て、ぜぇぜぇ、てん、てんじ、ぜぇぜぇ、ぜ、ぜんじく、っくっく、ぜんじく、ぜんじくぜんじくぜんじくん、ぜんじくん、な、なに言ってんだ、俺、ぜぇぜぇ」 |
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その夜、お坊様は鯉に暇を出し、その身の振り方を猿と豚に任せた。彼らの意見を聞かなかったことに対するうしろめたさからである。 |
「………」 |
天竺への道は遠く遠く険しく険しい。 |