長安を出て23日目。
通りがかりの村で一泊。

翌朝、鼠の夫婦、およびその連れに暇を出す。

名残りを惜しむ鼠夫婦の姿に、後ろ髪を引かれる思いで出立するお坊様であった。

ともに旅の苦楽を乗り越えてきた猿と豚も、それぞれ鼠たちに別れを告げ、天竺へと急ぐのであった。

別れの辛さを乗り越えた一行が、村はずれにある池の淵を通りかかると、一匹の大きな鯉が話しかけてきた。

「もし、お待ちくださいませ。
もしやあなた様は、遠く天竺までありがたいお経を取りに行く旅をしているというお坊様でございましょうか?」

「いかにも天竺へ向かう途上であるが何用であるか?また、そなたは何者か?」

「はい。私はこの池に300年棲んでおります鯉でございます」

「この池の主などと呼ばれ、わがもの顔で生きてまいりました。若い頃にはずいぶんあこぎなこともいたしましたが、この歳になってふと振り返ると、私はこの池から一度も出たことが無く、外の世界というものをまったく知りません。
いくら鯉とはいえ、300年生きた意地がございます。このまま池から出ずに死んでゆくのはあまりに口惜しゅう存じます。
どうか私を天竺への旅のお供に加えて下さいませ」

猿と豚はこの申し出に強く反対したが、お坊様は、鯉が「水中の生き物」であることに何か閃きを感じ、供に加えることにした。


ビッタンビッタンビッタンビッタン


ビッタンビッタンビッタンビッタン

「…俺さぁ…」

ビッタンビッタンビッタン 
 ビタビッタン

「石から生まれたんだぜ」

ビッタンビッタンビッタ
ビビッタンビビッタン

「ふぅん」

「…不思議だね…」

ビッタビッタビッタ 
 ビビッビビッビビィッ

ビタ

ポックポックポック

「ぜぇはぁぜぇはぁぜぇはぁ、わ、わ、わたしを、を、を、て、て、ぜぇはぁぜぇ、て、て、ぜぇぜぇ、てん、てんじ、ぜぇぜぇ、ぜ、ぜんじく、っくっく、ぜんじく、ぜんじくぜんじくぜんじくん、ぜんじくん、な、なに言ってんだ、俺、ぜぇぜぇ」


まだ村が見えるところで日が暮れた。

その夜、お坊様は鯉に暇を出し、その身の振り方を猿と豚に任せた。彼らの意見を聞かなかったことに対するうしろめたさからである。
「………」


天竺への道は遠く遠く険しく険しい。

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