長安を出て1,021日目。

「う〜さぶ。どうだい?わかったかい?」

「う〜ん…どこで間違えたかはだいたい見当がついたんですけどねぇ」

「おや、そりゃどこだい?」

「お師匠様が川遊びをされて、流されたことがありましたでしょう?」

「あ?あーあー、そんなこともあったかねぇ」

「あの時、お師匠様をお助けしてから元の道に戻ろうとした時に、私は左だと言ったのに、お師匠様が右だとおっしゃいましたね?あそこから間違えたようなんですよ」

「ちょっとお待ちよ。それじゃまるで二重の意味であたしに責任があるみたいじゃないか。
あの時だってお前がすぐに飛び込んで助けてくれればあんなには流されなかっただろうにさ」

「おらもまさか猿の兄貴が泳げないとは思わなかったぞ」

「私が泳げないのは頭の輪ッかが重いせいです。私はもともと泳ぎは得意で、子供の頃はみんなに河童って呼ばれてたくらいなんですからね」

「なんだい。河童なんて架空の生き物じゃないか。この世に河童なんていやしないんだよ。
私が思うに道を間違えたのはもっと前だね」

「もっと前というと、このあたりですか?」

「違うよ。それじゃ最初っから間違えっぱなしじゃないか。あたしたちゃそんなにバカかい?」

「そうするとこのあたりで?」

「もうちょい先もうちょい先。ふぅ〜」

「ここですか?」

「違うよ。ふぅ〜ふぅ〜、ほらそこそこ」

「なにふうふうしてるんですか?」

「あたしの息が指すところをよくごらん。ふぅ〜ほら、今のところ大当たり」

「横着しないで手を出して指してくださいよ」

「いやだよさぶいもの」

「それにしてもここはホントに寒いねぇ」

「どこでもいいからあったかい所に行こうよ」

「どこでもいいって、天竺に行くんでしょ?」

「とりあえずだよ、と・り・あ・え・ず。
そうやって人の揚げ足取るのって感じ悪いよ」

「どっかでゆっくり温泉にでもつかってさ、あったかーい鍋でもつつこうよ」

「おらもお師匠様に賛成だな。
あったかい鍋をつついてから天竺へ向かうほうが早く着くような気がするぞ。
猿の兄貴、鍋は嫌いか?」

「いや、俺も鍋は好きだけどさぁ」

「ほぉらごらん。猿も鍋を食べたいとさ。
そうと決まったらさっさと出かけようじゃないか。
ほらほら善は急げだよ」

「お師匠様、それを言うなら『鍋は急げ』ですよ」

「うまいこと言うねぇ、豚はうまいこと言うねぇ」


天竺ヘの道は、

あの道を左だった。

(C)2005 OTO



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