故郷を百万歩

3

ザザザザザザザザザザザザザザザザザザザ

黒くて臭い雨は、たくさん降ってすぐにやむ。
でも、やんだあとにはしばらく臭いにおいが残る。

僕は、雨上りにたちこめたそのにおいを嗅ぐと、何かを思い出しそうになる。
何か…
何かを思い出しそうになるけれど、どうしても思い出せない。


「あ。」

「…ネズミも…」

キキーッ!

「予定変更だな」
「もうすぐあがるだろうけど…」

「ここからなら、西にまわってみるのは?」
「西か…何かあるかな?」

グッチャッグッチャッグッチャッグッチャ

あ。

あれ…




「うちの玄関とおんなじだ…」

ギッ

ガギンッ

ギッ、ギッ、ギッ  ギィィィィ

ジャリッジャリッジャリ

水道からは水が出て

スコッスコッ

冷蔵庫を開ければジュースやアイスが入っていて、

お菓子を食べながらテレビを見て…

あれはみんな、

どこから来たんだろう。

「この子…」

この子がこの家に住んでたんだ…この子が…

お父さんやお母さんといっしょにこの家に…








もう。





もう。

いいや。

ここで。

ここまでで。


ここで死んじゃっても、もういいや。

ね。



赤ちゃん



私たちの

お前が生まれた夜
父さんと母さんは

きれいな星が

だいじなだいじな

なきごえ


だいじなだいじな

ちいさな手

いつもおまえを

はじめて
立った

はじめて
歩いた

歯磨きがきらいで



いつもおまえを

はじめて
「かあさん」と呼んだ
はじめて
「とうさん」と

だいじなだいじな
ちいさな笑顔





私たちの子



・・








・・






















生きて生きて生きて生きて生きて生きて生きて生きて生きて生きて生きて生きて生きて生きて生きて生きて生きて生きて生きて生きて生きて生きて生きて生きて生きて生きて生きて生きて生きて生きて生きて生きて生きて生きて生きて生きて生きて生きて生きて生きて生きて生きて生きて生きて生きて



父さん母さん

いつもおまえをいつもおまえを



ガギンッ

ギッギギイイイ
ジャリッジャリッジャリッジャリッ



「うわっ!誰かいる!サギラ!サギラ!」
「誰だこいつ?」
「死んでるのか?」
「どうかな」

生きてる 生きてる 僕は生きてる

つづく

2005.2.15

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