活字の子

バッテリー 1〜6  

あさのあつこ(著) 角川書店
2007.5.25


ひきこもりの子供が、「外の世界と関わるのもちょっとはいいかな」と思いはじめるお話。

野球に思い入れがあればあるだけ原田巧に振り回される人たちのお話。

原田巧がひきこもっているのは野球のマウンド。
そこでなら完全な存在でいられるから。
マウンドの外でのことはどうでもいいと言い切る。
マウンドの外では完全な存在でいられないから。

投げたボールがマウンドから飛び出した瞬間に、そのボールすらどうでもいい物になっているのかもしれない。
永倉豪は、そのボールだけに惚れればよかったのに、投げている男にも惚れてしまい、関わっていった。

原田巧の才能って何だろう?
ピッチャーなら、何勝しました、いくつ三振をとりました、バッターなら、何本ホームランを打ちました、打点を何点あげました、それが他人の記録と比べてどうです、というのが才能や実力の測り方だと思うが、原田巧に限っては他人との比較で語られない。ただ凄いのだ。
これって、少女マンガの、たいして取り得があるように見えない(読者が感情移入するべく作られた)ヒロインが、とにかく登場人物の中で一番いい男と恋愛関係になる都合と似ているような気がする。

まず恋愛物語ありき。
まず天才美少年ありき。

最終巻のあとがきで作者が、原田巧を捉えきれなかったと書いているが、私もそう思う。

全巻読み終わってみて、原田巧は洞窟のようだという印象が残った。
周りの人間の言動で輪郭は現れたが、本人は空洞。

実は原田巧という人間は存在せず、周りの人間がでっちあげ、あたかもそこにいるように振る舞っていただけでした、という恐ろしい物語だったのかもしれない。
しれなくないか。


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