フリー〈無料〉からお金を生み出す新戦略 クリス・アンダーソン (著) 高橋則明(訳) 小林弘人(監修・解説) NHK出版 |
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2010.1.17 | ||||
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常識的知識にやや欠ける私には、従来のフリー(無料)の仕組みの話から充分に面白かった。 無料とはいえ結局はどこかで支払いが生じてると説明できるもの。 ジレットのカミソリ無料、替え刃有料のような消耗品で儲けるというのはわかりやすいし、見回せばいくつか見つけられそうだ。 商品に自信があれば試供品を気前よく配ってファンを作るという方法もある。 この手のフリーは理解しやすくて、読んでいて気持ちいい。 しかし、この本の本題は、デジタルデータや、インターネットの発展、普及で生まれてきたフリーの話だ。 それは、コンピュータの処理速度、デジタルの記憶容量、ネットにつながる回線が、速く大きく太くなることで、それらの使用が、気にならないほど安価になっていることから生じてきたのだそうだ。 フリーメールサービスとしては後発の Gmail が、容量の大きさで話題を呼び(それだけじゃないけど)、利用者を増やしたが、なぜそれが可能だったのか、後発のほうが圧倒的に有利な理由がわかりやすく説明されていて面白い。 先発の業者はGmail と同じサービスをしようとしたら、短期間にかなりの設備投資をしなければならないからなんですって。 とてもとても面白い本だけれど、読んでいて、核心に触れそうで触れないような、もどかしい気分も何度か味わった。 何ていうんだろうか、物の形を説明するのに現物の周囲の空気の形で説明されてるような、洞窟の空洞の形を説明するのに岩の形を描写するしかないような(本書の内容が空虚って意味ではないですよ)。それも部分だけ、みたいな。 もっと何かありそうだな、という期待のようなもの。 私はこの本を読んで仕事に生かすような業界では働いていないが、ひとつだけ気になることがあった。 本書のでは何度も、「潤沢な物は無料に近づいていく」書かれているが、労働力はどうなんだろう? 潤沢(取り替えが簡単)であれば、フリー(最低賃金、または裁量労働制というインチキから生じる長時間のサービス残業など)に近づいていくのではないだろうか? 新しいフリーを使ったビジネスモデルの世界では「ひとり勝ち」が生じ易いとも書かれていたけど、少数のひとり勝ちにを支えるために多くの労働者はフリーで働くような世界になるとしたら(もうなってるの?)、恐ろしいし、そんな世界には住みたくない(もう住んでるの?)。 この本は成功例を基本に書かれているので、自分が勝ち組になるつもりの人は気持ち良く読んで、ビジネスの参考にでもすればいいと思うが、地を這うような製造業に携わって、この何年かの異常で非常識な値下げ圧力を「なんでこんなことになってるんだろう?」と思っていた私のような者には、恐ろしい世界のからくりをちょっと見せてくれた書籍であった。 |
活字の子 |