活字の子

 変身 

カフカ (著)   池内紀(訳) 白水社(白水Uブックス)

2010.2.8


私の場合「変身」と聞くと、改造人間やら宇宙人やら忍者やら実に様々な物をを連想してしまうが、逆に、「カフカ」といえば、まっ先に思い浮かぶのは、「『変身』を書いた人」ということだ。

その印象があまりに強く、どんな話かもだいたい知っていたので、読んだことがあるような気がしていたが、読んでるうちに自信が無くなってきた。初読みかも。

「ある男が朝目覚めたら虫になってた」

という設定があまりに強烈で魅力的なので、それだけでわかったような気になっていたが、そうか。こういう話だったんだ。
新鮮。

実に切なく、そして身につまされる話だ。

朝起きたら虫になってたのに、仕事に遅刻したのを心配するザムザ。
唯一面倒を見てくれる妹も兄の姿は見たくないという態度を露骨に示す。
やがて、老いて働けなかったはずの父や、幼かったはずの妹が職を得ると、一家の厄介者となってゆくザムザ。

切ない。切なすぎるぞザムザ。そして世界中の労働者(私を含む)。

切ないが面白い。
虫の身体描写とか、感覚が人間と変わっていくところをザムザの主観で描いているところとか、とっても魅力的。

世界中で秘かに変身するやつが増加している話とか読んでみたい。
そしてある日町にあふれ出すのね。虫が。
無数の細い脚を持った虫たちが。
わぁ、たまんねぇ。

前回「城」を読んだ時にも思ったけど、カフカって心配性だったんじゃないかな。
そのあたりちょっと安部公房に通じるものがあるような気がする。

小説部分だけでは短いからなのか、巻末に40ページほど、作品とカフカの経歴の解説がある。

カフカって勤めのかたわら小説を書いていたサラリーマン作家で、生前はほとんど作家としては評価されてなかったんだって。意外。

写真を見るとなかなかの美形。後に虫に変身するとはとても思えない。
変身しないって。



多分。

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