活字の子

忍法八犬伝 

山田風太郎(著)  講談社
2008.5.1


世の中にはいろいろな「八犬伝」があるが、私にとって「八犬伝」といえば、その昔NHKで放送していた人形劇『新八犬伝』である。
小学4年生ころだったか、もう、みんな観てた。
親も子も教師もみんな観てた。
ような記憶がある。

ような記憶はあるが、ストーリーはよく覚えていない。
玉梓が怨霊だの、さもしい浪人あぼしさもじろうだの、坂本九の語りだのは覚えているが詳しいストーリーは覚えていない。
なんだか犬塚信乃の話が延々続いていたような気もする。
記憶の強さほどにはちゃんと観てなかったのかも。

全話見直させていただきたいが、ビデオは消去されていてもう二度と観られないんだって。
ものすごく残念だが、世の中にそういうものがあってもいいかな、という気もする。

というわけで。
新たな「私の八犬伝」を探す旅が始まったのでした。

まず山田風太郎の『八犬伝』を読んでみた。「忍法」が付かないほう。

『南総里見八犬伝』の物語を描いた「虚の世界」と、原作者滝沢馬琴の実生活を描いた「実の世界」が交互に出てくる凝った構成だが、私は「虚の世界」だけで娯楽に徹したものを読みたかったなぁ。
アクションシーンはしびれるところが何箇所もあった。

が。
原作の『南総里見八犬伝』の終盤というのがなんだかグズグズだったそうで、こちらも「虚の世界」のほうは、ダイジェスト版みたくなっていって、娯楽としてはなんだか寂しいことになっている。

しかし。
『忍法八犬伝』なら、そんなことは無いだろう。
なにしろ「忍法」だから。と、読んでみた。

で、やっぱり面白かった。
八犬士の子孫が忍法やらその他の能力で大活躍。
彼らが持つ球が、本来の“忠孝悌仁義礼智信”の文字が浮かぶものではなく、敵忍者にすり替えられた“淫戯乱盗狂惑悦弄”であり、でもそれぞれの文字が彼らの属性に合っているという設定。

アクションシーンはかっこよくアイデアいっぱいで、こういうところは香港映画の、娯楽のために知恵を絞る姿勢を思い起こしてしまう。
物語はクライマックスに向けてきっちり盛り上がり、すっきりすっぱり結末を迎える。

そして。

ラストのラスト。
すがすがしく哀しく、そしてかっこいい。

やはり「八犬伝」の主人公は犬塚信乃なのかなぁ。

このラストはいいよぉ。



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