活字の子

ショック・ドクトリン
ナオミ・クライン
(著)   幾島幸子・村上由見子(訳) 岩波書店

2011.12.28


なんとも世界はいやなものだなぁ、ということを教えてくれる本。

と同時に「ああ、そうだったのか」と、「腑に落ちる」気持ち良さも与えてくれる、稀に見る多角的にいい本。

何より、読んでて面白い。書いてあることはいやなことだらけだし、本当に明日は我が身で怖くてしょうがないけど、それでも(だからか?)読んでて面白い。これはすごい。


グローバリゼーションだの新自由主義だの規制緩和だの民営化による自由強競争だの、みんな強欲の実現のための屁理屈じゃねぇか。

強欲の乞食どものために戦争や災害や政変が利用され(場合によっては意図的に起こされ)、果てしなく貧困が発生してゆく。


南米の経済危機はラテン系の血が招いたあの地特有のもの、と思っていたよ。

内戦や人種差別が続いた国の経済危機は、内戦や人種差別が続いたことの付けだと思っていたよ。


アンナ・ポリトコフスカヤの著書『チェチェンやめられない戦争』で語られていたことは、強力な共産主義国の「慣性」や、収まらない「歪み」で起こっている出来事かと思っていたよ。


でも違うのね。


ああいうことは世界中どこでも起こりうる悲劇だってことを、この本を読んで思い知らされた。

どこでも起こる。

とりわけ、大きな災害に襲われた地では。


日本人はみんなこの本を読んで、表面的、限定的な言葉でもっともらしいことを言っている奴らの卑劣さに気づく受容体を持とう。


『ショック・ドクトリン』の著者ナオミ・クラインは、アメリカの「ウォール街を占拠せよ」運動の集会(って言うのか?)のスピーチでこう言ったそうだ。

「私たちは、この地球上でもっとも強力な経済的・政治的な力にいわばケンカを吹っかけたのです。それは怖いことです。この運動がますます力をつけていけば、怖さも増していきます。運動の標的をもっと小さなものにしたくなる誘惑に負けないよう、注意を怠らないことです」

なんとおっとこ前。

そして、この運動を「世界でいちばん重要なこと」と定義してスピーチを締めた。(雑誌『世界2011年12月号』岩波書店 幾島幸子訳より)
スピーチは2011年10月6日、『ショック・ドクトリン』の原著は2007年発行。


世界でいちばん重要なこと。

身勝手で強欲で卑劣な、大金持ちの乞食どもに負けない何かを身につけること。

知識とか誠実さとか思いやりとか連帯感とか、勇気とか。

その他、あらゆる「強欲」の反対側にあるものをすべて身に付けること。

そのためにまずはこの本を読むことを強く強くお奨めします。日本人全員に。

TOP

活字の子