キシワタリ天涯地　1　（C) 2010　Otora

バッ　　！

世界が大きく舵を切る時、 運悪く振り落とされる者がいる。 ただ運悪く。それだけの理由で世界から蹴り落とされるのだ。 転がり落ち、背骨を打って呻きながら、 それでも顔を挙げ、辺りを見回し、そして言うのだ。 「ここは一体どこなんだ？」

1

「ねぇねぇ、知ってる？埼玉にある無人の町の話」

「え？知らな〜い」 「ネットで地図とか航空写真を検索しても、「この地域は表示できません」ってなっちゃう町があるんだけど、あれ、ほら、町の画像をずっとつながって見られるやつ、なんつったっけ？」

「あ、ストリートなんとかって、マウスでたどってけるやつ。道とか歩いてるみたいに。ぐるっと見回したりできるのね、あれ」

「そうそう、それそれ。で、その町ね、地図の検索はできないんだけど、そのストリート何とかである決まった道順を辿ると入ることができるんだって。 ホントは削除されなきゃいけないんだけど、ソフトのバグで、あるルートだけ残っちゃったんだって。 それでね…

そうやって入るとその町の今の様子が見られるんだぁけぇどぉ…」 「どうなってるの？」 「ひさん」 「え？」

「もうどうしようもなく悲惨なんだって」 「どうしようもなく？」

「そう。見たらこっちの精神がおかしくなるくらい悲惨な物が映ってるんだって」 「ほんとぉ〜？」

「ホントホント。あたしの中学ン時の友達の同級生が偶然見ちゃってぇ、今入院してるって」

「うっそ〜？違う、ケガとかじゃなくて？」 「ううん。こっち」

ゴオォォーー

「…………」

「あ、わたるくん？」

「春加瀬渉君でしょ？」 「…ハイ」

「大きくなったわねぇ、おばちゃんのこと覚えてる？ 覚えてないよねぇ、ちっちゃかったもんねぇ」 「あの、」 「え？何？」 「ごめいわくをおかけしますが、よろしくおねがいします」 「あ、あはは、迷惑じゃないけどこちらこそお願いします。おばちゃんさぁ、車で来ようかとも思ったんだけどぉ、ちょっと歩くからね、でもしばらくこっちにいるわけだから駅からの道も早く覚えたほうがいいと思って、ね、歩いて行こ」 「はい」

「改札出て右、西口」 「はい」 「ロータリー抜けて商店街抜けて」

「国道の信号渡ってすぐの路地に入って、」

「路地を抜けたら左に土手に上がる石段が見えるから」

「路地を……」

「抜けたら……」

「みさと…」 「みさと…」 「え？…」

「誰かが淵に立ってこちらに入ろうとしているわ」

「誰か？…入ろうと？」 「そう。中に入ろうとしている」 「それは…」 「いやね…」

「ぼうや…」

「こっちだよぼうや」

「おいで…」

「こっちへおいで」

つづく

キシワタリ天涯地　1 　2010. 12.13

キシワタリ天涯地　　2. ならく

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