そして二日目の夜が明けた。
と、思ったら、朝の7時はまだ暗かった。夜はかなりの時間まで薄明るい、というか薄暗い状態だったので、夜明けは遅いのだろう。まだ夏時間ということも関係あるかもしれない。
北岡さんの目覚まし時計が鳴って起きたのだが、北岡さんが「いやー、夜中の1時ごろに目覚まし鳴らしちゃってさぁ、起きなかった?」と訊いてきた。私はまったく気付かずにぐーすか眠っていたのだが、どうやら目覚まし時計を日本時間のままセットしてしまったらしい。
「時差ボケの目覚まし時計」。なんか絵本のタイトルになりそうだ。
私は目覚ましとは関係なく午前3時ころに一度目がさめてしまった。日本時間で朝の10時。休日に何も無く寝ているとこのくらいの時間に起き出したりするので、体はまだ日本時間なんだろう。
朝食は例のレストランで、バイキングと言うのだろうか、自分でパンやら何やらを取ってきては食べるという形式だった。
何よりコーヒーがおいしいのにはまいってしまった。
思えば、家では毎朝毎晩コーヒーを飲んでいるのだが、飛行機内ではトイレを気にして飲まなかったし、こちらに着いてからは頭の中が「ビール」だけになっていたので、しばらくコーヒーを口にしていなかったのだ。そういうことがなくてもおいしいコーヒーなのだろうが、とにかく舞い上がるくらいおいしく感じた。
ホテルを9時に出発してフランクフルト・ブックフェア会場の、フランクフルト・メッセへ向かう。
まずはタクシーで、きのう観光した市街とは少し離れているウィスバーデン中央駅へ。高い天井を見上げたり、店をながめたりしながら構内を進み、ガイドに教わったやり方で切符を買う。
まずは一覧表で目的の駅を探す。われわれが向かうのはフランクフルト中央駅だ。フランクフルトにはもうひとつ空港駅というのもあるので間違えないようにしなければならない。フランクフルト中央駅を見つけたら、その番号を自動販売機に入力、次に大人か子供かと、購入枚数を選ぶと金額が表示されるので、お金を入れると切符が発行される。
やってしまえば簡単なシステムだが、「これでいいのかな、いいのかな」とドキドキしながら操作をして無事切符が手に入ると、軽い達成感を得られる。
ウィスバーデン中央駅の高い天井
ホームにて
切符を手にホームへ。改札に当たるものはなくて、歩いているうちにホームまでたどり着いた。ウィスバーデンは始発駅で、ホームには何台かの列車が出発を待っている。
ガイドに教えられた番号の線を慎重に探して列車に乗り込んだ。
列車が走り出してしばらくすると赤いベレー帽をかぶった警備員みたいのが回ってきて、検札を始めた。
後にベルリンでのガイドから聞いた話では、ドイツの鉄道には改札が無く、警備員の検札があるだけだそうだ。検札の時に切符が無いと30ユーロの罰金だが、切符を買わずに電車に乗る人もけっこういるらしい。
私たちは(多分)正しく切符を買っているので、堂々とベレー帽に提示する。ベレー帽は軽くうなづいて次の客のほうへ移っていった。
ドイツ滞在中、地下鉄も含めて何度も電車に乗ったが、検札を受けたのはこの時だけだった。時間帯や路線にもよるだろうが、切符を買わずに、見つからないほうに賭ける不届きなやつがいてもおかしくないくらいのおおらかさだ。
電車は林を抜け、郊外の住宅地を抜け、フランクフルトの市街地に入っていった。
窓から高いビルが見えてくる。北岡さんが、特徴的な高い塔を見つけ、指差しながら「あれ、あれ、あれがメッセの目印の塔だ」と教えてくれる。
フランクフルト中央駅からメッセまでは歩くことにした。地下鉄も出ているが、たいした距離ではないからだ。
駅のビルから出ると、高いビルばかりで周りが見通せないが、「多分っこっちでしょう」という方へ歩いて行くとやがて、電車の中から見えた塔が現れた。
フランクフルト市街。路面電車が走っているのだ。
メッセ前の「ブックフェア、やってるよ」の看板
無事メッセにたどり着いたが、会場へ入るにはやはりチケットが必要で、それも窓口で「おとな一枚」とかいうような簡単な買い方では買えなそうな雰囲気だった。
チケット売場は入り口から階段を上がった二階にあったが、臨時の窓口のような物がたくさん並んでいて、見ていると、みんな窓口の人となにやらやりとりをして購入している。
木戸さんがインフォメーション窓口で、なにやら紙をもらって来て、これに記入すればチケットが購入できるということがわかった。
見ると英文でずらっとチェック項目のようなものが書いてある。
木戸さんをはじめ、みんなの英語力と、島田さんの持っていた電子辞書を駆使して解読していく。
私はほとんど役に立たないまま解読が進み、チェック項目が埋められていったが、どうしても意味が解らない単語がいくつかあり、すべてを埋めることはできなかった。
それでも「このくらいでいいでしょう」ということになって窓口に持っていったら、無事六人分のチケットを買うことができた。入場料は一人15ユーロ。
晴れてチケットを手に入れて、さあ、いよいよブックフェア会場へ!と、入ったが、そこから遠い遠い。初めに日本のブースのある会場へ向かったのだが、動く歩道みたいのに乗って、延々20分くらいかかったんじゃないだろうか。
おかげで私は一度みんなとはぐれてしまった。
なぜはぐれてしまったかというと、写真を撮っていてはぐれてしまったのだ。
で、その時撮っていたのがこの写真。
いや、もう言葉もありません。自分が恥ずかしいです。
迷惑をかけた皆様にはこの場を借りてお詫び申し上げます。
って、この後もいろいろ迷惑かけちゃうんだよなぁ…。
後で、浅野さんに「あの時はどうしてたんですか?」と訊かれたが、「いやー、写真を撮っていたらはぐれちゃったんですよぉ」と言っておいた。ウソは言っていない。「だるまの」が抜けているが。
「17.世界一いいかげんなブックフェアレポート」につづく
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