キシワタリ天涯地 4  (C) 2011 Otora










あの子は?

しらない。

まりんちゃんもしらない。

あたし、しってる。

おなじようちえん?

ううん、あのこようちえんいってなかったの。

ようちえんいかなくてよかったこなの?

しらない。
こうえんにときどきいるの。
でもね、おかあさんはあのことあそんじゃいけないって。

なんで?

わかんないけどなんか、あのこのおかあさんがびょうきでうつるからだって。

なに、びょうき?がん?

わかんないけど。

でね、あのこね、だれかがね、こうえんでね、みたの。

あのこむしたべちゃったって。

えー!むしーっ ?!

むしーぃーっ ?!えーっ!

あそばなーい。
まりんちゃん、あのことぜぇったいあそばなーい。

あたしもー!


あたしもあたしもーぜぇったいあそばなーい!


4

「二組の芙多葉美郷の母ちゃんって、字ぃ読めないんだってよ」

「くぼやん、それホントぉ?
親子で公園の草食ってるって聞いたことあるけど」
「違うよ、虫だよ虫。地面掘ってセミの幼虫食ってんだよ。あいつんちの近くの公園は夏になってもセミが鳴かなくて静かだって」

「うえっ、それは嘘であってほしい」

「ホントだって」









「近づくと病気うつされるって。あの子のお母さん病気なんだから。お仕事の関係で」

「え?お仕事何?」

「えー!?言えなーい。まりんちゃん言えなぁ〜い」







なにすんだよぉっ!!










バコォッ! 

「こいつ信じらんねぇ!俺の本さわりやがった!」

「くぼやんやばいよもうびょーきだよ」

「うるせぇっ!!」

ドン!
ガガッ!ガラーン


「イテテ、痛いよくぼやん…」




生まれてから何度か笑ったことがある

あの子の悪口を言うと

みんなが笑う

あの子が泣けば

みんな幸せ

あの子を沈めたぶんだけ
自分が浮き上がれるから

でも

幸せな子どもたちが
どんなにどんなに
どんなに悪意をふりしぼっても

心の底からすべての悪意をさらいあげても


あの子の本当の不幸には届かなかった





なんだこれは?

ひとか?

いきているのか

あまりにみにくい

いきている

いきていていいのか

だれがそだてるんだこんな

もの


ころすのか

だれが

ころすのは

いかすか

いきていけるのか?
これが?

みにくい
これが?

しったことか
おれはこれとかかわりたくない

すてるか

すてよう
おれたちはなにもみなかった

おれたちはみなかった
みにくい
これを


これをすてて
そしてすべてわすれよう

すべてわすれて
いつものせいかつにもどるんだ


そうだ
だいじないつものせいかつにもどるんだ



















ゴボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボッボボボ
ボボッボボボボボッボボボボボッボボボボボッボボボボボッボボボボボッボボボボボッボボボボボッボボボボボッボボボボボッボボボボボッボボボボボッボボボ



かっ!



「みさとっ!みさとっ!」

ブシュゥッ!

クゥウェイイッッ!!

















シュゥゥゥゥゥゥ〜














ダン ッ!!








バッ!

















シュワワワ〜









「みさと?だいじょうぶ?」

「うん…大丈夫」




「みさと…、あのひと…」



「家に行こうとしてるんだと思う.…あの人」






つづく





キシワタリ天涯地 4  2011. 10.22


5. うち」
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