さすらいロボ ヤスジロー  2001.7.07
第10話 ロボ、語られる。


西暦2032年7月08日 10:24:11 AM
「イテテテ。ちっぎしょー、ゴッツォのクソおやじべ」
「だいじょうぶ?おっきい兄ちゃん。ずいぶんやられたね。
俺達インチキのロボットでだましたりしてないのにね。
おれ、そう言ったんだよ」

「どうすんだよ、兄ちゃん、あのロボ公、あそこにはもういないみたいだし」
「絶対、あどドボ公をびつける。そして俺達でコスゲデンキに直接売りつけてやる」
「えっ?そんなことしたらまたゴッツォさんにやられちゃうよ」
「あいかわらずバカだなおめぇは。金が手に入ったらどこへでも行けるだろう。ゴッツォの手の届かないところでもよ」
「あ、そっかー。頭いいなァ、ちっちゃい兄ちゃんは。どこでもかぁ…俺、どこか南の島がいいなー」
「おまえ、寒がりだからな。でも、おまえは連れて行けるかわかんねぇぞ」
「えー!どうしてー?!」
「おまえは本当の弟じゃないからな」
「えーっ!!!!ホント?ねぇ、おっきい兄ちゃん?ホント?」
「おべぇら、静かにしろよ。病院だぞ。アタッ」

「あれは21世紀になった記念の旅行だったから、2001年ね。私があの人と日本に行ったのは。
ちょうど今ごろだったわ。知ってるかしら、今頃の日本は雨期なのよ。ずーっと雨が降ってるのよ。
でもね、私たちが空港に着いた時に、それまで降り続いていた雨がちょうどあがったの。
雲が切れて、陽がさしてきたのよ。きれいだったわー。滑走路にこう、まっすぐ光が降りそそいでいるのよ。
いっぺんで日本が好きになったわ。それで、あの人ったら私になんて言ったと思う?」
「光とともに舞い下りた僕のエンジェル」

「あら、なぜ知ってるの?」
「きのう伺いましたから」
「あらそう?まあ、いいわ。エンジェルって、私のことなのよ。もう、いい歳だったけど、彼にはそう見えたのね。うふふ」
「どこも素敵だったわぁ。ギンザ、ハラジュク、キタセンジュ。でも、キタセンジュで食べたあれはいやだったわ。味はともかく、見た目がちょっとねぇ。あれは…あれみたいで…」
「ショウナン、フジヤマ、コウシエン。
コウシエンでは日本のベースボールを見る予定だったのよ。大好きなのよあの人。
私はスポーツはダメ。ほら、小さいころから体が弱かったでしょ?でもその夜から雨が降り始めて、中止になっちゃたのよ。彼ががっかりしてると思ってなぐさめたの。そしたら彼、なんて言ったと思う?」

「神様が二人きりになれる時間をプレゼントしてくれたのさ」
「あら、なぜわかったの?」
「きのう伺いましたから」

「そうだったかしら?彼、詩人なのよ。忘れられないわ。あの雨の夜。
でも、その次の日、あいつが現れたのよ。誰だと思う?」
「彼の前の奥さんですね」
「あら、これも話した?」
「はい」
「日本まで追いかけて来たのよ、しつこい女。
でも、その時はまだ離婚してなかったのよね、あの二人」
「…
それは初めて伺いました」

「サンドラと話していて、私は、人間の記憶に関する認識を改めました」
「どういうこと?」
「過去における感情が現在に影響をおよぼす場合がある、という事が、わかりました」
「ふんふん」
「フィッツシモンズさんと話した時は、過去の感情が現在の行動を左右するという事が理解できませんでしたが、過去の想い出を語っている時のサンドラは、過去の感情とほとんど同化しています。
現在の生命活動を支えているようにも見受けられます」
「精神分析ロボ第1号ね」
「ドクター公認の」
「電話を貸したくらいでおばあちゃんの相手は申し訳ないと思っていたけれど、あなたのためにも少しはよかったかしら?」
「何かお手伝いする約束ですから」
「律儀ロボ第1号ね」

「に、に、に、に、兄ちゃんたち、あれあれあれ、」
「なんだよ」「うるせえよ。アイテテ」
「ほら、あそこ。ロボロボロボロボ」
「?ボロ?あーっ!!」
「あいつだよね、あいつだよね」
「いや、待てよ、ホントにあいつか?ロボットを使ってる病院があるって、テレビで見たことあるしな」
「でも、この町でロボットなんか見たことないよなぁ。」
「俺、確かめてくるよ」
「どうやって?」
「心があるロボットだったら、ジョークを聞けば笑うよ。きっと」
「ばーか」「とにかく、やつが一人になるのを待つぞ。」

日本 東京都足立区
コスゲデンキ本社・宿泊ルーム
「この国、嫌いだな。湿気が多くて。
会長とはいつ会うことになったの?ママ」
「まだわからない。いつ退院できるか、わからないの」
「会長、嫌いだな。僕らを待たせるなんて」
「急病なんだからしょうがないじゃない。高齢なのよ。」
「死んじゃえばいいのに」
「イシロー」

「日本人とメキシコ人がロシア人のパーティーに呼ばれて…」
「黙ってろ。
お前はISA-P3000だな」
「はい。私はISA-P3000です。あなたがたはフランクのスクラップ場に来た人たちですね。私を確保するのが目的ですね。ここで騒ぎは起こさないで下さい。病院ですから」
「賛成だ。おとなしくついて来い」
「その前にひとつ、お願いがあります」


11:20:01 AM

11:28:42 AM

11:39:39 AM

11:58:16 AM
「ロボ公、遅いね」
「黙って待ってろ。お別れを言いたい人がいるなんて律儀なロボットじゃねェか。少しは見習え。…いてぇな、チキショー」

「サンドラ実は…」
「それで空港に着いた時に彼が、コアラを食べさせる店に行こうって、もちろん冗談よ」
「サンドラ、ちょっと聞いて…」
「彼、冗談ばかり言うのよ。彼といるときは笑いっぱなしだったわ。この国の金持ちはコアラを食べるんだって、おかしいでしょ?」
「はい」

第11話 ロボ、壁ぎわにすわる。につづく


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