さすらいロボ ヤスジロー  2001.11.11
第13話 ロボ、命令を拒否する。

西暦2032年7月09日 00:22:15 PM
「現状でここから出て行く危険性は予測不可能です。我々を捜索している人数が不明だからです。
やはり、外部の人間を呼ぶことが最善であると判断します」
「どうするの?」
「私の体内に緊急救難信号の発信装置があります」
「え?すごい…?ね」

「救難信号は通信衛星を通じて警察、消防、救急などの機関に送られます。そして…
コスゲデンキにも」
「つまり、…コスゲの人間もここへやって来るというわけか。
そしてお前を見つける」
「はい。必然的にそうなります。救難信号は一方的に送り続けられ、自分では停止できないのです」
「それじゃぁ、取引はパァか。そんなのダメだ」
「金銭を得る目的は経済活動を行うことにあるはずです。経済活動の主体は人間…」「ジャン、よく考えろ、殺されたら…」
「ふん。どうせ俺は他人だから関係ねぇよ」

「ジャン!
聞けよ。パパがお前を連れて来た時、俺にこう言ったよ。『この子は今日から俺の息子だ。だからお前の弟だ。俺に何かあったらお前が弟を守れ』ってな。10才にもならない俺に約束させたよ。だから…
…もともと俺が言い出したことでこんなことになっちまって、今さらなんだが、…
ここから生きて逃げよう。ゴッツォから、今までの生活から逃げよう。な。
ロボ公」
「はい」
「お前はそれでいいんだな?」
「はい。私は常に最善の行動を選択します」
「やってくれ」


「サカタサン、あいつらホントにこのへんにいるのかねぇ?」
「明るくなるころには人をまわしてもらえるはずだ。それから探せばわかるだろう」
「人が来るまで待ちますか。
…♪Jet Jet baby an ha han a」

「こうやって暗い中で話してると子供のころベッドでいろいろ話したのを思い出すなぁ」
「うんうん、そうだね」「…」
「暗い中だと何でも話しちゃうんだよな。ジャンが好きな女の子の話をしたのもベッドの中だったし」
「…よせよ」「あ、覚えてる。キャリーって子」「うるせぇよ」

「ちっちゃい兄ちゃんは、ちっちゃい子が好きなんだよな」「殴るぞ、テメ」
「おっきい兄ちゃんは、おっきい子が好きなんだよね。胸とか」
「ロボ公、ルークを殴れ」
「その命令には従えません」

「パパとママが…
…死んだ時もベッドでいろいろ話したな。これからどうしようって」
「…」「…」
「あの時からおかしくなっちまったな…俺が間違ってた」
「よせよ」「そうだよおっきい兄ちゃん」
「あの時はゴッツォがいい人に思えたんだ。俺たちの面倒を見てくれるって」
「おっきい兄ちゃんは間違ってないよ」「そうだ。…に…兄ちゃんのおかげで今までやってこれたんだ。ゴッツォのおかげじゃねぇぞ」
「過去のあやまちに気後れするのは愚かであると言えます。あやまちから学習して、未来をより良くするための判断基準とすべきです」
「そう思うか。…
…ふふん」
「何がおかしいの?」

「こういう暗いところで話したことって、あとで思い出すと恥ずかしかったりするよな。」
「ああ、そうだな」「そうだね。好きな女の子の話とか」
「ロボ公、そいつをホントに殴れ」
「その命令には従えません」
「ふひひっ」
「私はロボットですから、兄弟は存在しませんが、あなた方は想い出を共有することで強い絆を形成しています。その絆が今後生きていく上で大きな力になると予想されます」
「ルーク、その偉そうなロボを殴れ」
「その命令には従えません。ふひひ」

 東京 コスゲデンキ本社 第3会議室
「月曜日?月曜日には会長が出社するのね」
「そう聞いています」
「では、月曜日には会長と会うことになるのね?」
「いいえ。会長はあなたの用件に関しては何もおっしゃっていません」
「どういうこと?」
「すべて会長が出社されてから判断されます」
「…」
「それがこちらのやり方なのです」
「…そう」

「会長はボクに会いたくないのかもしれないけどボクも会長に会いたいわけじゃないしママも会長にボクを会わせたくないみたいだからアメリカへ帰ればいいのになぜ帰らないんだろうママはボクよりヤスジローのほうが大事でボクはヤスジローのことを知らないけどママはよく知っていてボクよりヤスジローが好きなんだからボクはママの言うことをきくのがいやになっていて会長にも会いたくないし会長もボクと会いたくないしママも会わせたくないママはヤスジローが好きだからアメリカへ帰ってヤスジローといればいいのにボクはママが好きなのにママはボクを好きじゃないからヤスジローも好きじゃないし会長も好きじゃない」

僕は、

僕はヤスジローが嫌いだ。

「来たようです。行きましょうか」
「ああ、警察はちょっと苦手なんだけどな」

「警察だけではありません。
レスキューや消防の車両も来ているようです。
コスゲデンキの人間も…」


「ねぇ、ロボ公は、」
「ルーク。できたらヤスジローと呼んでいただけますか?」
「ヤスジロー?」
「はい。私の名前です」
「あ、うん。ヤスジローはコスゲデンキに行ったらどうなっちゃうの?」
「おそらく日本に行くことになります」
「日本!日本かぁ。あの国は治安が悪いっていうから気をつけてね」
「はい。ありがとう、ルーク。優しいですね」
「へへ」
「お兄さん達と仲良く」
「うん」

「お兄さん…達…か」
「そうですよ、ジャン。これからは、ルークの優しさが力になるような生き方をすべきです」
「…わかったよ…ロ、ヤスジロー」

「わかった?お兄さん達」
「殴るぞテメ」

第14話 ロボ、作動を停止する。につづく

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