さすらいロボ ヤスジロー |
2002.8.27 |
第20話 ロボ、間違いを正される。 |
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7月14日
09:48:22 AM 「希望ハウス」の庭 「頼子はすっかりいいようですね。 昨晩は体中の皮膚が膨れ上がってとても苦しんでいたようですが」 「ああ。いつもそうだ。夜始まって、一晩明けるとケロっと治ってる」 |
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「それがわかっていたから病院に連れて行かなかったのですか?」 「それもあるけどな。医者に診せても原因はわからないんだ。治療もできない。 同じような子供がこの国にはたくさんいてな。頼子はまだ軽いくらいだ。 ひどい子になると突然、体が倍くらいに膨れ上がってそのまま死んじまうらしい」 |
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「それでも原因の解明や治療もできない?」 「そうだな。化学物質や遺伝子操作された物を長い間食べ続けてきた影響があのくらいの子供に出てきてるんじゃないかって説もあるけどな」 「化学物質…」 「そういうのって、俺たちの年代の人間がよ、便利さとか、経済効率とかってやつのために使ってきたんだろうが、言ってみりゃ、俺たちのツケを頼子たちが払ってるってことさ。 俺たちが頼子たちの健康や幸せを喰っちまったんだ」 「喰って…」 |
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「食べ物だけじゃねえよ。 この国の仕組みだってそうだ。 あの橋の向こう側に住んでる連中の暮らしがどんどんぜいたくになっていったのと反対に、街には失業者があふれた。 職を失った連中が、頼子の両親のように職を失ってどうしようもなくなった連中が、生きるために兵隊になって遠い国の戦争に行くような仕組みを誰が作った?」 「誰だと言うのですか?」 |
「俺たちの世代さ。 そういう、よその国の戦争に行くような法案が出ると、初めは反対するんだ。新聞やテレビやなんかでな。作家とか、ニュースキャスターとかって連中がな。 で、一旦引っ込むんだそういう話は。 でも、しばらくするとまた出てくるんだよ、ちょこっと形を変えてな。 そういうことを繰り返しているうちに、麻痺してくるんだよ。錯覚っていうかな。『あれ、この法律ってもう決まったんだっけ?』なんて具合にさ」 「賛成した人もいたのですね」 「そりゃ、初めからいたさ。政治家はもちろん、作家、テレビタレント、マンガ家。 肩書は色々だけど共通してたのは、みんな自分は戦場へなんか行かないってことさ。自分や家族が戦場へ行かない方法を持っているやつらさ」 |
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「戦場へ行って死んだのは誰だ? 幼い子供を残して、遠い国で銃弾を撃ち込まれたのは? 爆弾で体をバラバラにされたのは誰だ? この国の仕組みから押し出された人間さ。 男も女も戦場へ送り込まれ、命がけで『国際貢献』して、 その成果は橋の向うの連中がみんな吸い取っちまった。 こんな仕組みを作ったのは誰だ?」 「…」 「俺たちだよ。 俺たちは止めることができなかった。 何かが大きな足音を立ててやって来るのに気付かなかったんだ。 いや。 足音が聞こえないふりをしていたんだ。 能無しのヘタレさ。俺はな。そう思うよ」 |
「過去を変えることはできません。 「そう思っているのですか? |
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01:00:10
PM 東京都足立区内路上 「何?常磐線の電車の上を走ってたぁ?! あぁん?公園で布団を干してたぁ?! 警察ナメると射殺するぞって言ってやれっ!」 |
「ヤスジロー、それちがうよ」 「はい?」 「それじゃ、みみがないよ」 「耳、ですか?」 「かして」 |
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「♪あんぱんふたつ、くださいな♪で、みみになるんだよ」 「ホントですか?」 「ホントですよ」 「…」 「ショック?まちがえててショック?」 「いいえ。まったく」 |
怖くて外もガーンガーンそこをまっすぐだってばてめぇふざけんじゃねぇぞ!見た見た?だからそうなんだよ買ってくれよ売ってくれよキキキキーッそこで?俺が?言った?お父さんはいつもロボットが人を殺したって?明日は降るみたい仕事無くすよ家から出ないでなぜ人を殺しちゃ |
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こっちだって考えてんだからさああっちの、ほら、あの家の人たち怖い見ちゃダメよあしたでしょ?人生ってやつ友だちなんていないよまだ出ないの?俺のもの俺のものガリガリガリ汚くて臭くて何か欲しいんじゃない?そばにいてそばに来ないで |
もう絶対ダメ来なくていいよ三組にいたやつ?笑えねーパリとかさ、そういうとこそれ持ってる買ってブタだよ、ブタそんなにかかるわけありません帰りたいそれがうるさいんだよ間に合うわけないだろバカ優しくしてよ痛いよそんなとこ生きてたってしょうがないもん | カネがあればいいんだってほら、殺しちゃったやついるじゃない?不良品だよお前なんかいらねぇよ何でも言葉にはできないよ言わなきゃわかんないよ俺はやらない弱い人自分でやってくれよ欲しい欲しい助けて助けて誰か助けて |
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ドカドカドカドカドカドカドカ |
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ドカドカドカドカドカドカドカ 「?」 |
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「いったい何の…」 「どけ!邪魔だっ!!」 |
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「どうしました?」 |
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「いたぞぉっ!!」
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