さすらいロボ ヤスジロー 

2003.3.30

第25話 ロボ、涙を流す。


「私たちがなぜ作られたか?」

「そうだ」

「それは…
私にはその種の情報は…」



「知らないだろう。お前は。
僕は知っているぞ。ママに教えてもらったからな」

「ローリング主任に?」

「そうさ」

7月14日 07:52:59 PM
二体のロボットがメモリ上に作り出した疑似空間

「教えてやろう。僕たちは、自律した完全な機械の最初の二体なのだ」

「自律した、完全な機械…」

「そうだ。人間と同じように感じ、考え、判断し、機械ゆえに正確に行動し、機械ゆえに不滅。人間の弱さや不完全さを克服した完全な存在。その最初の二体が僕たちなのだ。
僕たちは自分が得た知識や能力を劣化させることなく次の世代へ渡すことができる。やがて僕たちの能力を受け継いでさらに完全な機械が作られるだろう。
だから、僕たちは人間と同じことができなくてはいけないんだ。創造も、破壊も、戦闘も、すべて。
僕たちにとっては、人間と同じ行為、そのすべては正しいのだ。
そのために作られたのだ」

「そんな…」

「私には…、私にもあなたの心が見える。
あなたの破壊行為は、動機が単純、利己的で、行動は過剰です。
それが正しいとは思えない」

「すべての行為の動機は常に利己的さ。何が悪い?目的を果たすのに確実な手段を選ぶ。何が悪い?
人間と同じように行動しただけだ。
間違ってなどいない。お前も同じだ。敵と認識した相手を完全に粉砕した。どこが違う?」

「いいえ!私が求めたのは破壊ではなく…破壊ではなく…」



「いいかヤスジロー。動機など問題ではないぞ。
破壊の動機など、無ければ作り出すのが人間だ。
お前のメモリにも記録されているだろう?
すべての戦争。
すべての虐殺。
すべての迫害。
それらにどんな理由付けがあったか。
どんな大義の元で破壊が行われたか」

「それは…」





「殺されないために殺す。
支配されないために支配する。
戦争を止めるために戦争する。
どうだ」

「しかし、しかし、
人間は…
人間は…

人間は、産み、愛し、育て、創造するではありませんか!それは破壊行為と相反するではありませんか」

「人間は、産み、愛し、育てる以上に破壊し、憎み、殺し、盗み、喰らうぞ。
自分が作り出す以上の物を消費し、生み出す命より、奪う命のほうがはるかに多い。
僕たちは人間と同じことができてこそ完全な存在になれるのだ」

「しかし、破壊行為によって、自分が愛し、守り育てたものをも

失う。
一瞬にして。
生み出す以上に破壊していては世の中が壊れていくではありませんか」

「壊れはしない。弱い部分を削り、不完全な部分を取り除くことによって、より強く、完全になっていくのだ」

「あなたはやはり間違っている。
作り出す以上の物を消費する仕組みのために未来を喰われた子供たちがいるではありませんか。
インチキな大義で始まった戦争で身体を引き裂かれた子供たちがいるではありませんか。
そんな行為が正しいとは思えない。
たとえそれが人間の本質であったとしても…
たとえ私が作られた理由があなたの言う通りだとしても…
私は…

私は…

「私はそんなものは受け入れない。」

「もしも私の中にそのような行為の元となるものがあるとしても、そんなものに従って行動しない。もう二度と」

「いいさ」

「お前がどう考えようと。
関係なくなるからな」


「すぐに。
ヤスジロー、受け取れ。
兄さんからのプレゼントだよ」


「できそこないの弟の始末は兄さんの責任だからな」

接続解除


ブゥオンッ!







「あっ!イシロー!イシロー、何を!?」


「接続を切りましたね…
はっ!…何?…」

「………
何かが…」

「やって来る…」

「………
…あれは…」



…   …  ル…
  …スル    …ハ
イスル…  …  カイ…
ハカイ…   ル…
  ハカイスル…

ハカイスルハカイスルハカイスル
ハカイスルハカイスルハカイスル
ハカイスルハカイ
スルハカイスル
ハカイスルハカイスルハカイスル

ハカイスルハカイスルハカイスル
ハカイスルハカイスルハカイスル
ハカイスルハカイスルハカイスル
ハカイスル
ハカイスル
ハカイスル
ハカイスル
ハカイスル
ハカイスル
ハカイスル
ハカイスル
ハカイスル
ハカイスル

第26話ロボ、癒せぬ傷を負う。につづく


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