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早起きは三文の徳、
と人は言う。
「徳」なんだね。「得」だと思ってたよ。たった今まで。
早起きしたら三文もらえるもんだと思ってたよ。今の今まで。
三文っていくらだよ。
日本円でいくらだよ。
相場は変動するのかよ。
「徳」はお金に換算できるのかよ。がっかりだ。
そんなだからライブドアの社長みたいのが騒ぎまわるんだよ。別にいいけど。
それはそれとして今朝は早起きしました。15分くらい。
15分の早起きはお金に換算するといくらだよ。
いや別にいいけど。
「おか〜さ〜ん」
アヤがむっくり起き上がって叫んでる。オカーはショウヘーを送り出すために一階に下りている。
銀色に輝くデジタル時計の画面を見ると、
06:42
通常は7時ちょっと前が私の起床時間なので、あと15分くらいは睡眠時間のはずだった。
アヤは私を見ると、
「ほんみよー。ケーキがなくなるほん」
子ブタのケーキが無くなって、ネコの探偵が探すけど、犯人はお母さんブタで、みんなでケーキを食べてめでたしめでたし、という絵本だ。こないだの日曜に読んであげたやつだ。
朝からそんなことやってられないって。
「おとうさん起きて会社行くから、本はまたこんどみよー」
「おとうさん、シャツきてかいしゃいきたいの?」
「うーん、行きたくないけど行くの。ホントは会社なんか行きたくないんだよぉ」
朝からアヤ相手に愚痴っていてもしょうがないので少し早かったが、靴下やらハンカチやらを持って、アヤを抱きかかえて一階へ下りた。
その後はまあ普通の朝のペースで準備して家を出た。
今日は直行だったのだが、得意先の最寄りの駅に着き、清算機に定期券を入れたら、私がお金を入れる前にちゃりんと10円玉が出てきた。
4枚。
40円。
もうけ。
よんじゅうえん。
40円の得。
15分の早起きは40円の得。
ということが明らかになった3月の朝であった。
40円払うからもう15分寝かせてくれ。
なんてことも考えちゃう3月の朝であった。
オトーくん43歳の春であった。
…
あ42歳だ。
そりゃそうと。
その得意先から帰る途中、通りがかりのバス停でちょうどバスが発車するところだったのだが、ドアが閉り、動き出した瞬間に、派手な青色の上着を着た小太りのばあさんがドテドテと駆け寄り、持っていた杖でバスをカンカン叩いてとうとう乗り込んじゃったのを目撃した。
ばあさんてすごい。
バスを停める魔法の杖。
っていうか、ばあさん杖いらないんじゃないの?
2005.3.11